学校を核とした新たな地域創生を
御船版コミュニティ・スクール実践発表会


 本日は寒気が流れ込んで寒いですね。身体は冷え込んでいますが、心はぽかぽかと暖かく、満ち足りた思いです。おそらく参加者の皆様も同じお気持ちではないかと思います。
 とてもすばらしい発表会でした。
 本日の御船版コミュニティ・スクールの研究発表会に、郡内はもとより郡外からも御参加の方がいらっしゃると聞いています。コミュニティ・スクールについて関心が高まっている証ですね。
 本日の発表会は、参加者の皆さんの学習に十分応える発表会であったと思います。
 コミュニティ・スクールは、文部科学省が平成17年に全国で17校を研究指定して以来、地域とともにある学校の良さが認知され、全国で、「○○コミュニティ・スクール」の指定が増えてきました。熊本県でも熊本版コミュニティ・スクールが創設されています。本町は御船版コミュニティ・スクールをここ七滝中央小学校で実施しています。県下の校長先生方の中には、「○○小・中版コミュニティ・スクール」を推進しようとお考えの先生方がたくさんいらっしゃいます。
 ところで、コミュニティ・スクールとは、文部科学省版であろうと熊本版であろうと御船版であろうと、学校の教育課題を学校・保護者・地域が共有し合い、その課題解決のためにそれぞれが協働して教育活動を展開して、確かな生きる力を身につけた児童生徒を育む制度です。違いは、文部科学省コミュニティ・スクールは市町村教育委員会が条例や規則を作り、それに基づいて学校運営協議会を設置し、協議会にいくつかの権限が付与されていることです。
 人口減少時代に入っても過疎・過密が進行し、学校の統廃合が進められている現今の社会情勢下で、持続可能な社会を維持していくためには、学校を核とした新しい地域創生が求められています。このことから考えますと、コミュニティ・スクールの推進は時代の流れだと思います。
 このような観点から私なりの思いをいくつかお話しましてまとめに換えたいと思います。
 先ず、コミュニティ・スクールの経緯です。
 最近、急にコミュニティ・スクールが脚光を浴びてきたように思われますが、学校教育を社会教育関係者が応援しようという学社連携が重要な教育課題であると提唱されたのは、「46答申」と呼ばれていますが、昭和46年、中央教育審議会が「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本政策について」と社会教育審議会が「社会構造の急激な変化に対処する社会教育の在り方について」が始まりと言われています。それ以後、中央教育審議会や社会教育審議会、生涯学習審議会が諸々の提言をしてきたことは先生方ご存じの通りです。
 この、学社連携・開かれた学校の根底に座っているのは「生涯学習」の考え方です。それで、生涯学習の理念について少し触れておきます。
 昭和40年、ユネスコの成人教育推進国際委員会でポール・ラングランが提起した「生涯教育」(lifelong integrated education)に依拠しています。「integrated」とは統合とか組織化という意味です。つまり、生涯教育とは、「人間の一生を通して行われる教育の過程を、人の一生という時系列にそった垂直的な次元と人の生活全体にわたる水平的な次元から統合するべきである」という考えです。
 垂直的統合とは、人生の各時期、乳幼児期から高齢期までの教育あるいは学習活動の系統的な連携や接続ということです。例えば、幼稚園と小学校、小学校と中学校、中学校と高等学校、高校と大学、学校と社会で行われている教育の内容・方法との多様で柔軟な継続と連携のことです。
 水平的統合とは、人々のあらゆる生活の場における教育や学習の総合的な統合ということです。例えば、家庭教育と学校教育、学校教育と社会教育、社会教育と家庭教育が必要に応じて連携したり、三者が一体となって活動したりすることです。
 この視点から学習指導要領を見てみますと、平成元年に改訂されました学習指導要領は、「生涯学習体系への移行」を提言した臨時教育審議会の答申後に改訂された学習指導要領で、「21世紀を目指し、社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成を図る」ことを基本的なねらいとしたものでした。学校教育を児童生徒の生涯学習の基盤形成という視点で捉え、社会の変化に適切に対応できる心豊かな人間の育成を図ることを重視したのです。そして、自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力などの資質や能力を重視する「新しい学力観」を提唱しました。まさに生涯学習理念そのものです。また、学ぶ楽しさや学ぶ意欲を高め成就感を体得させるための体験学習や問題解決学習を重視して小学校1・2年生に生活科を設定しました。これは、先ほどの水平的次元からのものです。
 平成10年の学習指導要領の改訂は、「完全学校週5日制」を踏まえ、「これからの学校教育においては、これまでの知識を一方的に教え込むことになりがちであった教育から、自ら学び自ら考える教育への転換を図り、子供たちの個性を生かしながら、学び方や問題解決などの能力の育成を重視するとともに、実生活との関連を図った体験的な学習や問題解決的な学習にじっくりとゆとりをもって取り組むことが重要である」として、児童生徒の「生きる力」を育むことをねらいとしました。この生きる力もまさに生涯学習の理念そのものです。また、地域社会を学びの場とした横断的・総合的な学習や児童・生徒の興味・関心などを生かすことができる「総合的な学習の時間」(小学3学年から高校3学年まで履修必修)を創設しました。この学習指導要領は、児童生徒の生活の場における教育や学習活動を水平的統合を重視しています。
 コミュニティ・スクールの導入には、このような経緯もあることを踏まえると、その地域や学校での特色あるコミュニティ・スクールができると思っています。
 次に本校の研究発表から私が学んだことをお話しします。
@ 研究紀要の「はじめに」のページに、「これまでの保護者と地域住民による学校支援にとどまらず、児童・職員も積極的に地域に出かけ、地域の活性化に貢献できるような双方向性のある関係をつくること」とコミュニティ・スクールをとらえてあります。地域の人に加勢はしてもらいたいがこちらから地域への加勢はどうも・・・の一方通行の連携が多い中で、双方向の連携を打ち出してあるところは画期的です。学校も家庭も地域も得るところが一杯ある、これが双方向の連携です。
 「風土」という言葉があります。この言葉を学校に当てはめるとすれば、先生方は「風の人」です。異動により勤務校が変わります。地域の人は「土の人」です。この地域で生活していらっしゃいます。3年生の社会科の授業で、ゲストティーチャーを務められた方の言葉、「6年生と給食を会食したとき、隣の席にいた子に『なすびは好きね』尋ねたら、『なすは嫌いでしたが今日のなすはおいしいです。これからはなすを好きになるよう食べます。』との返事に『ありがとう』と言いました。」と話されました。このやりとりは先生にはできません。農業に従事している土の人でなければできません。5年生の吉無田高原植林の話をされた方は、植林への思いを熱く語られました。子どもたちは、このような土の人を自分のモデルとします。これが地域創生へとつながります。
 今人々の中に、3つの恩が忘れかけられています。3つの恩とは、「親の恩、地域の恩、先生の恩」です。本日の先生方の動き、地域の方々の動きを見ていますと、子ども達は、親の恩はもとより、地域の恩、先生の恩を十分に感じ取っていると感じました。地域土の人と風の人が融合しあって教育活動を展開して欲しいと思います。
A 研究紀要1ページに、研究主題を「ふるさとの文化や自然を誇りに思い、地域の方に感謝の気持ちをもって、礼儀正しく接しようとしたり、ふるさと・地域のために取り組もうとしたりする心情の高まりを、地域の力を活かして目指すことが必要」ととらえてあります。社会教育関係者と話をしていますと、「今、人々は3つの恩を忘れかけている」と話題になることがあります。3つの恩とは、「親の恩」「地域の恩」「先生の恩」のことです。子どもたちに恩を売るのではありませんが、私はこの3つの恩をそれぞれが自覚し、それぞれが感謝し合うことはとても大事なことだと思います。
B 紀要2ページに学校教育課題を共有する機関として「魅力ある学校づくり協議会」が記してあります。資料28ページを見ますと、メンバーは、学校評議員さんが兼ねています。そして、青少年健全育成会議などの既存の組織と連携しています。新たに組織を立ち上げたものではありません。組織が機能するには、それぞれ目的に応じた組織を作るより既存の組織を活用した方がシンプルで動きやすいものです。また、「魅力ある学校づくり協議会」というネーミングがすばらしいと思います。ネーミングについては、天草のある学校では「○○小学校と地域の絆を結ぶ会」というのがあります。ネーミングも工夫すると皆さんから愛される会となりますよね。
C 紀要4ページに「地域学習計画集」が示されています。これは、先生方、個々の取り組みを組織としての取組へ繋げます。年間活動を見渡すことができます。授業が終わったら、指導をした先生の気づきや子どものつぶやき、地域人材の話の骨子などを朱書して毎年更新することです。また、職員室のホワイトボードに、いつ、どの学年の何の教科に、地域のどなたと協働した教育を展開するかが明示してあります。このことで、学校挙げて地域の方をおもてなしすることができます。
D 道徳の副読本、「熊本の心」「伝えたい心」を活用してあることです。「熊本の心」は、「助け合い 励まし合い 志高く」の熊本の心を具現化するために編集された道徳の副読本です。郷土愛を育むために、道徳の指導案に、「ふるさと ともだち 家族」の視点を明記してあることです。このことで、指導する先生も、ゲストティーチャーとしておいでる地域の方も、子どもたちも我がふるさとを意識した道徳の学習ができます。
 私が参観した4年生の道徳の授業で、「私たちの校区には、守り伝えていきたい宝物はありますか?」の先生の問に、子どもたちが次から次に手を挙げて、「古閑の迫の虎舞」、「田代の獅子舞」、「八瀬の石橋」、「鼎春園(ていしゅんえん)」「七滝の自然」などと発表しました。漫然と過ごしていてはこのように地域の宝が続々とは出てこないと思います。日頃から地域に目を向けているからこその成果だと思いました。そして、子どもたちの発表が出尽くした後で、古閑の迫虎舞保存会の会長さんが、虎舞の由来とか保存するうえで心していること、学習して欲しいことなどを話されました。まさに子どもたちの豊かな育ちの機会でした。
 また、資料集36ページにありますように「熊本の心おうちで学習シート」をつかって家庭と連携した道徳教育を推進していることです。これは、親子読書活動につながります。家族のふれ合いにもつながります。郷土愛を育むことにもつながります。すばらしい取組です。
E 学校と地域人材とを結ぶコーディネートの取り方に工夫があります。学習支援は教頭先生経由で地域コーディネーターに依頼、体験活動支援は生涯学習担当者が地域学習計画集に基づいて人材バンク登録者に依頼するというハイブリッド方式(?)が採ってあります。これは、担当者の負担軽減になります。地域コーディネーターは民生児童委員の方が自主的にしていらっしゃるそうです。教育委員会で予算措置を考えていただければどの学校にもこの方式が採れるのではないかと思います。
 最後に、今後取り組んで欲しいことを1つ提起します。
 平成2年1月、央教育審議会は「生涯学習の基盤整備について」を答申しました。この答申で、学校は「児童生徒に生涯学習の基礎を培いなさい。そのために、自ら学ぶ意欲と態度を養成しなさい」、また「地域の人々に対して様々な学習機会を提供しなさい」の2つを提言しました。地域の人々に対して様々な学習機会を提供することは、高等学校や大学等に求めたものですが、これを義務制の学校でも取り組んで欲しいと思います。これを、私は義務制版公開講座と呼んでいます。例えば、授業参観があります。保護者や地域の人は子どもたちがどのように学習しているのかを参観しますが、先生方が一生懸命教材研究をして見てもらう授業を、我が子の学習のようすだけを見るのはもったいないです。保護者や地域の人に参観者の立場ではなく、学習者としての立場で授業に参加して欲しいのです。ですから、授業で疑問点があったら質問できるシステムを作ればそれが公開講座です。先日、ある学校のPTA活動で、夏休み前にPTA会員で救急救命法を学びましたとありました。例えばその講習会を地域にも呼びかけて地域の人と一緒に学ぶのも公開講座の一つです。天草のある学校では、福祉協議会が「認知症支援サポーター養成講座」を6年生を対象に実施するとき、地域にも呼びかけて一緒に学んだと聞きました。
 この公開講座が、本校で目指しておられる双方向のコミュニティ・スクール推進の一つになると思います。
 いろいろ申しましたが、学校を核とした、つまり同じ学校に通う子どもを縁にした地域創生ができますことを祈念しましてまとめに換えます。
 本日は大変ありがとうございました。


「学校を核とした地域創生」へ戻る